航測法を用いた地籍調査

1.航測法の概要
                    

 山村部における地籍調査では、土地所有者の高齢化、不在地主の増加、森林の管理不足等により、現地での立会いや測量作業が困難になってきています。また、滑落や危険生物との遭遇など、調査に伴う事故のリスクも高い状況です。一方で、近年の測量技術の発展に伴い、高精度な空中写真、航空レーザ測量データ等のリモートセンシングデータ(以下「リモセンデータ」という。)が活用できる環境が整いつつあります。
 山村部での地籍調査は、災害対策や環境保全、森林の多目的利用等の推進の観点から重要ですが、面積が広大であり、効率化を進めることで地籍調査そのものを加速していくことが求められています。このような背景から、令和2年に国土調査法及び関係法令が改正され、従前の航測法を見直し、リモセンデータをより活用した新たな航測法が位置付けられました。



※基本調査(リモセン活用型)についてはこちらをご参考ください。

                          

図.山村部での地籍調査の課題及び航測法導入により期待される効果                     

図.山村部での地籍調査の課題及び航測法導入により期待される効果

            
2.従前の航測法からの変更点
                    

 従前の準則でも航測法による空中写真を用いた測量方法が規定されていましたが、これは一筆地調査によって現地で確認した筆界点の位置に空中写真上で判読できるよう標識を設置し、その筆界点の位置を、地上での測量に代えて空中写真測量により算出するものでした。しかし、1.で述べた通り、そもそも前提とされている現地での筆界点の確認自体が難しい状況を鑑み、今回見直された航測法では、一筆地調査へのリモセンデータの活用、つまり現地へ赴くことなくリモセンデータを利用して筆界の調査ができるようになりました。また、使用できるリモセンデータの種類も、空中写真だけではなく、航空レーザ測量の成果や既存資料(既存の空中写真・航空レーザ測量成果)が追加され、一筆地調査に用いる様々な基礎資料の作成が効率的に実施できるようになりました。

                                           
表.改正前後の航測法の比較
表.改正前後の航測法の比較

            

3.航測法を用いた地籍調査の進め方
                    

 航測法を用いた地籍調査は、リモセンデータを利用した広域の調査が可能となることから、山村部(乙二・乙三地区)における地籍調査の大幅な効率化・迅速化が期待されます。一方で、通常の地上法による地籍調査のような現地での筆界点の確認や測量を実施せず、リモセンデータを活用した筆界案を集会所等で土地所有者等に確認していただくことが基本となりますので、調査に着手する前に土地所有者等への事前説明を行い、調査手法に対する理解を得ることが非常に重要です。また、土地所有者等からの合意が得られるような筆界案及び関連資料を準備し、説明ができるかも大きなポイントとなります。
 実際の筆界案を作成するにあたっては、2.で述べた通り、一筆地測量(E工程)と航測測量(RD工程)を併行して実施することが可能なことから、リモセンデータを活用した筆界案を土地所有者等に確認していただいたり、或いは確認された筆界に係る座標や各筆の面積をリモセンデータから算出したりする等、相互に連携しながら効率的に作業を進めていくことが求められます。

                                                                  図.航測法を用いた地籍調査の作業工程イメージ                     
図.航測法を用いた地籍調査の作業工程イメージ
                    

 土地所有者等に示す筆界案の作成や説明等にあたっては、リモセンデータから作成したオルソ画像や微地形表現図等の基礎資料を活用します。使用するリモセンデータについては、地籍調査を目的として取得されたもの以外にも、様々な機関(林務担当部局等)がそれぞれの目的で取得した既存のものがあり、その中には地籍調査でも活用可能な仕様で撮影又は計測されたものが存在します。これらの既存の資料を活用することにより、経費の削減や調査期間の短縮が図られ、効率的に地籍調査を実施することが可能となります。
 調査によって地籍図及び地籍簿の成果が作成された後は、通常の地上法により地籍調査と同様、成果の認証・承認のプロセスを経て、その写しが登記所に送付され、登記簿の更新や備付地図として活用されます。

                                                                  図.筆界案の例                     
図.筆界案の例

            
4.森林境界明確化事業との連携
                    

 林野庁の森林境界明確化活動は、境界が不明瞭な森林において、森林整備を目的に所有権界を測量するものであり、一般的に、地籍調査とは精度や調査内容が同じになるとは限りません。
 一方で、これらの取組は、土地の境界確認の一部で共通した作業を行うことから、互いの実施時期・区域の調整や、リモセンデータ・境界杭の相互活用、地権者の重複立会の回避などにおいて連携することにより、作業の省力化や費用の負担軽減を図ることが可能です。
 そのため、国土交通省と林野庁では、通知を発出するなどして、地方公共団体の地籍調査担当部局と林務担当部局間での情報の共有や事業成果の相互の活用等の連携を推進しています。


 なお、国土交通省では、森林境界明確化成果が地籍調査と同等以上の精度を持つ場合に地籍調査で活用する際の具体的な方法を整理した「森林境界明確化成果を用いた地籍調査マニュアル」PDFアイコン[236KB] (令和4年9月22日付け国不籍第38号国土交通省不動産・建設経済局地籍整備課長通知)を発出し、併せて各都道府県へ周知依頼を発出しています。

 林野庁における森林境界の明確化・施業集約化については、林野庁ホームページをご覧ください。
 加えて、「リモートセンシングデータを用いた森林境界の明確化」事業実施のマニュアルについては、林野庁ホームページ「森林整備地域活動支援対策制度の解説【一問一答】」P.105~をご覧ください。